跡部さんの苦悩


全国大会の出場を果たした氷帝学園。

第一試合は関東大会と同じ、青学だった。

負けない。

跡部は関東大会決勝でみた真田弦一郎と越前リョーマの試合を両目に焼き付けていた。

勝つのは俺だ。

どんな相手にだろうと、絶対に勝つ。

負けた悔しさと自分自身に対する苛立ちが募る。

今まで部のために勝つ試合をしてきた。

だが、今度は自分のためのテニスをする。

勝つために。




毎日ハードな練習が続いた。部の練習後も親の経営しているジムに行く。

学校とジムを行き来している毎日だった。

それほどまでにあの試合は跡部にとって衝撃的だった。

悔しさと苛立ち。

「越前リョーマ」

無意識に青学一年の名前をつぶやくと、

跡部はチッとあの試合のことを思い出し、舌打ちをした。





「アレ、あの人」

越前リョーマは部が終わり、校門を出ようとしたとき、見知った顔に気がついた。

氷帝の跡部景吾だった。

「越前リョーマ…」

跡部の目の前を越前が通り過ぎる。

その瞬間、跡部はつぶやくように目の前の人物の名を呼ぶ。

越前はチラリと視線を向けるが、返事はしない。

跡部も気にしてはいないようだ。

「次は勝てると思うな…」

跡部はその一言を言うと、その場から立ち去った。

「へぇ〜負けず嫌いなんだ…」

越前はその後ろ姿を見送りながら、笑みをこぼした。



跡部はしばらくしてから、自分の不可解な行動に少し戸惑っていた。

わざわざ、あんなことを言う必要はなかった。

試合に勝てばいいのだから。

しかし、跡部は何故か越前リョ−マに会いにいった。

ただ、感情の赴くままに。

「この俺が…」

つぶやくと同時に徐々に怒りと苛立ちが芽生える。

再び、舌打ちをしながら、跡部は帰路についた。



部屋に戻り、シャワーを浴びる。

最近はシャワーを浴びながら、頭をよぎるのは越前リョーマのことだった。

自分が勝てなかった真田弦一郎を倒した男。

決してマグレではなく、実力と運を持った一年。

次第に跡部の心の中に埋め尽くされていく存在。

自分に対する怒りと苛立ち。

越前リョーマに嫉妬にも似た黒い感情。

そして、テニスで打ちのめしたいという感情が混ざっていく。

跡部はドンッと壁を叩いた。

「くそっ」

行き場のないイラッとする感情に振り回されている自分自身が嫌になった。


シャワーからあがると、すぐにベッドに横になる。

そして、イライラする人物のことを思う前に眠りの奥へと吸い込まれていった。




翌日、部室に訪れた。朝早いため、誰もいない。

「越前リョーマ」

跡部は無意識のうちにつぶやいていた。

「ふ〜ん、ウチの部長さんは他校の一年が気になるんやな」

誰もいないと思っていた跡部は一瞬びっくりし、声の方へ振り向いた。

「忍足!」

「おはよ、跡部。ほんまに越前のこと好きみたいやな。珍しいな〜」

忍足は軽い笑みをこぼした。

その言葉に跡部は何故かイラッとした。

「そんなわけねーだろ。バカが…」

冷静に言葉を発したつもりだったが、果たしてどうだったのか。跡部にはわからない。

何故か、忍足には隠し通さなければいけないと思った。

「自分、そんなに大事なん?いつもなら軽い遊びですんでるやろ…」

跡部は忍足の言葉にズキッと胸の奥が痛んだ。

「…悪いが、今日は休むと伝えてくれ…」

「了解」

跡部の後ろ姿を捉えながら、忍足はがんばりや。と続けた。



朝っぱらから、何故青学にいるのか、聞かれれば理由は分からない。

果たして、この時間にあの男がいるのかさえ、疑問だったが、

跡部は感情を抑えることが出来なかった。

人目を気にすることもなく、青学の生徒に混じって、校門をくぐる。

そのまま、テニス部へと向かう。

場所はすでに調査ずみだ。

コート内では朝練をやっていたが、跡部の姿を見つけると一斉に視線が刺さった。

「跡部、何の用だ?」

手塚がそばに寄り、声をかけた。

「越前リョーマに用がある」

それだけを伝えた。手塚は練習の最中だ。といったが、

跡部が朝早く、人を訪ねにくることに大事な用があるのかと思い、越前を呼びつけた。

「悪いな、手塚」

「いや、なるべく手短にな」

跡部はうなずき、目の前に来た越前の腕を引っ張り、その場から立ち去った。




「跡部さん、痛いんですけど」

無言のまま、いきなり校舎裏に連れてこられたリョーマは戸惑っていた。

朝っぱらから跡部の顔を見るとは思わなかった。

「急に悪かったな、どうしても言いたいことがあったからな」

向かい合わせに立ちながら跡部は、そう言った。

「相変わらず、人のことは考えないッスね」

で、用って何?

と越前が言いかけた瞬間、跡部の顔が近づき、そのままキスをされた。

越前は頭の中真っ白、何が何だかわからず、固まっていた。

しばらくして、お互いの唇が離れると、越前はジャージの袖で唇をぬぐった。

少し、赤くほほを染め、恥ずかしながら。

「…これ、何かの罰ゲーム?」

「越前、俺と付き合え。多分、お前のことが好きだ」

跡部は真剣な表情でそう口にしたが、越前は黙ったままだった。

「…多分ってなに…本当に強引だね、アンタ」

越前はそういいながら、少し嬉しそうだったが、

二人が付き合うのはまた別の話で…。

結局、二人はそのまま、別れはしたものの、

戻った越前に先輩の注目の的にされたのはいうまでもない。



おわり



初の跡部×リョーマです。
引っ張りすぎて、最後だけだよ、
ラブラブ?
果たしてラブラブかどうか…
不発です。まだまだです。